「俺は噓は言わない。
情報の一部を言わないだけだ。
誤解する奴が悪いんだ。」
私が通っていた空手道場の道場長が言いました。
彼はこの空手流派の宗家代行代表理事兼最高師範七段という責任ある立場でした。
・・・
この流派は地方の千人規模の小さい流派です。
ネットワークビジネスという武道団体にしては比較的珍しいビジネス展開をしていました。
ネットワークビジネスとはギリギリ法律に触れないねずみ講的ビジネスの事です。
Amwayなどが有名ですね。
幹に近ければ近いほどより多くの枝からピンハネできるシステムです。
この流派の桜の名所で知られる土地一帯の支部を任されていた支部長は
営業力が高く
このネットワークビジネスに大変に可能性を感じ
一家総出で空手に打ち込み熱心に空手の指導をしていました。
支部の人数がある人数を超えるとネットワークビジネス上の枝から幹へと昇格できるそうです。
尋常でなく頑張り尋常でない勢いで稽古生を増やし
あと一人で念願の幹つまりピンハネされる側からピンハネする側へなって収入が大幅増になる。
という時でした。
「O支部長が型の一部を違えて指導していた。
この事態を重く見て支部長を解任する。」
本部から通達があったのです。
(本部通達ということは宗家のお考えという事か?)
支部長であることも枝から幹になる条件でした。
O元支部長は寸前で夢を断たれたのです。
「O元支部長は一人蒸発し一家は離散した。」
と宗家代行代表理事兼最高師範七段が淡々と言いました。
それを聞いてしばらくしてから
鈍い私はある事を思い出していました。
それは本部通達を聞いたその日の直前の稽古の時でした。
「うわあ、あいつが、あいつが幹になってしまう。
あいつが幹になったら俺の収入が一時的とはいえ減ってしまううう。」
宗家代行代表理事兼最高師範七段である道場長が稽古中に泣きわめいていたのです。
宗家代行代表理事兼最高師範七段は付き合いが浅いうちは大変にちゃんとした人に見えます。
肩書の割に口調も丁寧語ですし傲慢な所も見せません。
しかし
3か月もするとボロが出て来ます。
稽古中に
暴言を吐いて威張り散らしたり、粗暴になったり
逆に愚痴を言って泣きわめくなど
日常茶飯事でした。
だから私は大して気にも留めていなかったのです。
(!ああこの人が仕組んだのか・・・)
鈍い私は大分たってから気付いたのでした。
O支部長も
(本部通達ということは宗家のお考えなのか・・・)
そう勘違いして受け取ってしまい、ろくに反論もせずに自分のミスを悔やんで身を引いたのでしょう。
この流派の創始者である宗家は本物の武道家で皆から慕われるカリスマなのです。
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私は
私に目を掛けてくださった宗家の事が好きだったので
私の通う道場の道場長である宗家代行代表理事兼最高師範七段の厄介な人格はなんとか辛抱して
この流派には7年間所属していました。
その間否応なしに宗家代行代表理事兼最高師範七段の言動を色々と観察する事になりました。
冒頭の
「俺は噓は言わない。
情報の一部を言わないだけだ。
誤解する奴が悪いんだ。」
と言う宗家代行代表理事兼最高師範七段の言葉が
この人の信念を表していると思います。
恐らくは彼の親から受け継いだミーム(文化的遺伝子)でしょう。
この男の肩書を見ると
あたかも創始者宗家に実力と功績を認められて宗家代行代表理事兼最高師範七段を与えられたのだ
と思ってしまいます。
私はチョット腑に落ちないながらもそう思ってしまっていました。
そうではありませんでした。
この流派はそもそもこの男のモノだったのです。
この男宗家代行代表理事兼最高師範七段は若かりし10代の頃
若き日の創始者宗家の弟子でした。
組手の才能があったのでしょう。
白帯でありながら他流派であるK式空手の全国大会に出場し
なんと
無差別自由組手全国大会優勝
をかっさらって来たのです。
この大会は当てる伝統派として有名な大変に技術レベルの高い大会です。
(当然黒帯昇段だろう。)
と思っていた彼を
若き日の創始者宗家は白帯据え置きにしました。
理由は
「弱えーから。」
アタマに来た彼は師を捨て空手を捨て
親のコネで就職し営業マンになったそうです。
しかし就職先で単身赴任を命じられ
親元を離れたくなかった彼は会社に辞表を叩き付け
ニートになりました。
ニートの息子をニートでないように見せかけるため
彼の親は空手流派を立ち上げ息子にプレゼントしたのです。
しかし問題がありました。
彼に白帯しか授けていない師が、すぐ近所に住んでいるのです。
白帯くんが目と鼻の先で新興流派など立ち上げたらどんな目に合うか
分かったもんではありません。
一計を案じた彼の親は
「あなたのために流派を立ち上げたので創始者宗家を引き受けて下さい。
面倒な流派の運営は全て私どもで行います。
どうかお名前だけお貸しください。」
とでも言ったようです。
何も義務がなく名前だけ貸して
高給が得られるうえ住居まで付くのですから
創始者宗家を断る理由など見当たりません。
「うっかり引き受けてしまった。」
と宗家は後に大変に後悔されていました。
そして
この親は息子に宗家代行代表理事兼最高師範を名乗らせる許可を取り付けたのでしょう。
というかそれが金を出す条件だったのでしょう。
親心を打ち出して情に訴えたのだと思います。
こうして
息子はまんまと
全てをカリスマのせいにして好き勝手出来る黒幕に収まったのです。
この宗家代行代表理事兼最高師範七段は情報操作に憑りつかれた男でした。
情報遮断し情報隠蔽し情報操作し情報格差を創る。
そうすれば情報格差に金が流れる。
という
ケリーの第二基準
を信奉していたようです。
そもそもO支部長を騙す必要などさして無かったハズです。
一時的に宗家代行代表理事兼最高師範七段の収入が減るシステムだった。
それはその通りだったのでしょう。
しかし
流派全体の将来性を考えればO支部長の営業力は大変な戦力です。
指導員全員でそのスキルを共有すれば流派は爆発的に大きくなったハズです。
しかし
「俺は一度気に入らねーと思ったやつは一生嫌いなままだ。」
宗家代行代表理事兼最高師範七段はよく言っていました。
宗家代行代表理事兼最高師範七段はO支部長を嫌っていたのです。
宗家代行代表理事兼最高師範七段は営業マンだった経験から営業力が
彼なりの自信の拠り所だったのでしょう。
自分より営業に勢いがあったO支部長の事を面白くないと感じていたようです。
ただそれだけの理由で
O支部長の人生をぶち壊したのです。
確かに宗家代行代表理事兼最高師範七段は噓は付いていません。
「条件をクリヤーしたら利権を与える。」
と言っただけです。
「条件をクリヤーされて利権を与えなければならなくなったら
利権は絶対に与えたくないから
条件の方を変えるけどね。」
と言う本音は言わなかっただけです。
確かに噓は言ってないですね。
しかし
「噓を言わなければ騙しても良い。」
なんて屁理屈が通用するのでしょうか?
「噓はダメでも欺瞞はOK。」
なんて詭弁が通用するのでしょうか?
法律上、欺瞞が詐欺か?詐欺ではないのか?は存じませんが
大抵の人は騙されたら許さないのではないでしょうか?
少なくとも私だったら許しません。
嘘か?欺瞞か?
などどうでも良いのです。
騙そうとしたか?どうか?
が大事だと考えます。
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