九節鞭の型と合気、円の極意

私は空手の型を24種習いました。

剣術の型や柔術の型も教わりました。

そんな私は

(型は習ったままのかたちで実戦で使えるモノだ。)

とは全く思っていません。

しかし

「お前たち、武道と格闘技の違いが分かるか?」

空手の二人目の師に

組手指導のクラスで、そう質問された事があります。

二人目の師は暴力団の組事務所に単身乗り込んだこともあるというバリバリの実戦派でした。

「分かりません。」

「武道には必ず型がある。」

との事でした。

「俺はなア。若い頃、型なんか大っ嫌いだった。」

「しかしなア。今では型が一番大事なんじゃないかと思っている。」

どうやら型は武道にとって最重要必須項目だったようです。

「今からお前たちに型の意味を教えてやろう。」

そう言って師は本部指導員に木刀を2本持ってこさせました。

私に木刀を一本持たせ、ご自分でももう一本を持ち

丸腰のもう一人の稽古生を真ん中に立たせました。

「さあ今から二人掛かりでこいつを木刀で半殺しにするぞ。

頭はやめとけよ。56しちまうからな。」

私なりに師から受け取った””型の意味””とは

””「絶体絶命の窮地に陥ってしまった時

どうすれば生き残れるか?」

という矛盾問題を止揚せよ。””

というものです。

武道の型は

1対1が大前提でルールもしこたまある自由組手競技ごとき

に勝つためのツールではなかった

ましてや

型競技に出て他者から芸術点を評価されるために覚えるものなどでは無かった

ようです。

近頃は闇バイト問題など色々と物騒です。

護身用に盤龍鞭の一種である九節鞭なるものを初めて手に入れたアラカンの私は

そんな訳で

まず、九節鞭の型(套路)を調べて何とかして独学で覚えることにしたのです。

九節鞭は中国拳法の軟兵器の一種です。

私は中国拳法は何ひとつ習ったことがありませんが

本来九節鞭は、あらゆる中国拳法の兵器を習得した後、最後に教わる兵器だそうです。

それだけ操作が難しいのでしょう。

確かに、九節鞭の操作は、脱力が進んで疑似流体構造になった達人の身体操作と、共通点がありそうに感じます。

逆に言うと九節鞭は修練しなければ全く使い物にならないわけです。高い確率で自爆します。

つまり万一不覚にも敵に自分の九節鞭を奪われたとしても

奪われた自分の九節鞭で敵にやられる可能性は極めて低いと考えられるでしょう。

九節鞭や分銅鎖などで最も重要な動作は

収め(収鞭)

だと私は思います。

何故なら

軟兵器は絡め捕られるのが一番まずい!

と考えるからです。

軟兵器で、相手の身体や相手の武器を、自分の思惑で絡め捕り相手を崩すのは

もちろん望ましいのですが

逆に相手の思惑で自分の軟兵器を絡め捕られて自分が崩されては

まずいのです。

収めていれば、絶対に相手に絡め捕られることはあり得ませんし

収めていれば、即座に受け即座に反撃出来ます。

収めていれば、先制攻撃も何時でもあらゆる方向に出せます。

収鞭にはいくつかのやり方があります。

・持ち手でない方の手で鎖を迎えに行って回転を止め纏める。(超初心者向けですが、極意とも言える重要な理合いを含むと思います。)

・肘に巻き付けて巻き取り持ち手に落とし纏める。(古伝)

・鎖が伸びきって張っている時に持ち手で鏢を捕らえに行き纏める。(速いので実戦向き)

九節鞭のような軟兵器の短所の一つは硬い兵器に比べレスポンスが遅くなりがちという所でしょう。

柔軟であることがスピードを吸収してしまい易いのだと思われます。

収めからのストレートは比較的レスポンスが早めかと思います。

九節鞭のような軟兵器の短所の一つは硬い兵器に比べ防御が困難という所でしょう。

九節鞭の受けは両手で螺旋運動し急激に張り拡げることで強い受けにします。

九節鞭の受けてからの返しはフック系スイング系の軌跡になるでしょう。

九節鞭に限らず受けも受け返しも、実戦活用が一般的に大変に困難な技術ですが

もし受け返しを使いこなせるようになったら無敵です。

スイング系は相手にブロックされてもされなくても自動的に相手の背後に回り込み相手の背後を打つモノになります。つまり、軌跡は大振りですが、割と近間で繰り出す事で効果を発揮する技です。だから受けてからの返し技にもってこいなわけです。

ドイツのジャガーという競技で鎖鉄球の選手が強かったのもこのスイング系背後回り込みがあったからだと思われます。

九節鞭での攻撃拳の戦術の基本は

不意打ち気味にストレートを出したら即座に収める、の繰り返し

になるかと思います。

出来れば初撃一発で決めたいところですね。

蛇行という螺旋状の波動運動を使うと

収めていなくても、比較的起こりを読まれにくくなり、より不意打ちに近くなります。

僅かな手首のスナップの違いで前後左右上下に不意に飛ばせます。

先端の鏢が命中する寸前に、持ち手を急に引くと、先端が急加速し威力が出ます。

まさに鞭。ブルウィップなどの鞭と同じです。

武術ではカウボーイの投げ縄のようにブンブン振り回し続けたりはしない方が良いと言えるでしょう。

戦闘中に鎖をブンブン振り回し続けたら、相手に絡め捕られやすくなってしまうからです。

実戦で鎖を同じパターンのままブンブン振り回し続けるなどあり得ません。

では何故?

型(基本動作や套路)では鎖を同じパターンのままブンブン振り回し続けるのでしょうか?

鎖の操作能力を高めるためだ

と個人的には考えています。

つまり

勝負のためのコンビネーションではなく、上達のための鍛錬なのです。

戦闘中は不測の事態の連続です。

相手や自分の咄嗟の動作のせいで、鎖が想定外によたって変な動きをして自爆してしまうことは度々ある

と容易に予想されます。

鎖が制御不能に陥った時

すぐに制御を取り戻せるように

普段から、考えられる限りの色んな動きを操作してみて

予め操作能力をなるべく高めておくのだと思います。

””ウイーナーの制御理論””によると制御しやすい運動は

・単振動

・円運動

の2種類です。

だから色々と多くの円運動を基本動作と定めて練習しておくのでしょう。

不覚にも鎖がよたって制御を失ってしまったら、速やかに円運動に戻して制御を取り戻すのです。

套路はいくつかの基本動作の組み合わせ

と考えると比較的覚えやすいでしょう。

古伝の基本動作には

収鞭の他に

・拐肘鞭(右足前正回転からと左足前逆回転から)

・裏腿鞭(左足前正回転から)

・背鞭(右足前逆回転から)

などがあります。

ザックリ言うと

体の色々な部位を使って

・正回転

・逆回転

を変換すること

と言えます。

この時体の変更を使うのがコツです。

肘や膝だけを回して鎖の回転を何とかしようとしても、鎖が絡みついて鏢で痛い思いをしたりします。

体の変更動作、両足ピボットターン、で全身を180度回転する事で

痛い思いを避けられるようになります。

つまり正面衝突を回避しているわけです。

一文字に立ち背中側腹側と大きく8の字を描くとも言えます。クロソイド曲線ですね。

カウボーイの投げ縄のようにずっと同一方向の単純回転だと

見切られやすく裏をかかれやすいからとも解釈出来るでしょう。

複数の敵を想定して四方八方に目配りしているとも言えるでしょう。

一番簡単な8の字は持ち手拳頭をこねて回転を変換する事かと思います。誰でも簡単に安全に出来るでしょう。

そこから小手をこねて回転を変換するに発展させ

そこから肘をこねて回転を変換するに発展させる事が出来れば拐肘鞭です。

もちろん主体は体の変更です。

背中の体性感覚を発達させることがコツであり目的でもあると思われます。

持ち手の反対の手で、回転している鎖を払って回転を変換するのも比較的簡単です。

反対の手は拐肘鞭の左足前逆回転からで顔面自爆を避ける防御にもなります。

ここで気づくのは

基本動作は単に鎖の回転を逆転させているだけでなく

反対の手をはじめ身体各部を払うように身体操作することで

鎖の回転速度を上げている、角速度を上げている

という事ですね。

回転半径を半分にすると回転速度が倍になります。

だから簡単な手首よりちょっと難しい肘で絡めるわけです。

またパラメトリック同調出来るとさらに加速させたり方向変換させたり出来る訳です。

急に速くなることや急に方向が変わることで敵にとって見えづらくなり、かつ、威力が増すわけです。

威力が不十分だとそもそも武器になりません。

重要動作なわけです。

また

これらの基本動作は自分の色んなところでブレーキを掛けられることにもなります。

ブレーキは最重要な制御です。

パラメトリック同調するタイミングを外すと減速出来る訳です。

減速したらすぐに収め次に備えます。

原理は超初心者用収鞭と同じですね。

歩きながら色々出来ると良いですね。

実はこれらパラメトリック同調は

私が””本来の合気””と言っている技術と全く同じです。

柔道では””空気投げ””と呼ばれている技の原理です。

””相手攻撃の自分への衝突””

””自分が振り回している鎖の自爆衝突””

に代わっているだけなのです。

その衝突を刹那に陰陽虚実転換(押さば回れ、引かば斜めに)してパラメトリック同調現象を起こさせるのです。

実を避け虚に付く、虚を突く、のです。

相手正面を避け、側面もしくは背面に付くのです。

相手の運動を接触の刹那に後押しするのです。

宮本武蔵のいう合気すなわち水上の胡芦子です。

空手の受け技の極意である円の極意でもあります。

受け技の稽古は本来相手攻撃拳がいることが必須です。

基本稽古で一人で受けの基本稽古を少なくとも百万回ほど繰り返す事は必須ですが

それだけでは使い物になりません。

最高級スマホを手に入れたけれど回線が繋がっていないようなものです。

受け技は攻撃拳と自由組手をする中で色々学習する必要があるのです。

しかし

九節鞭の型を打つという一人稽古は

一人稽古でも自由組手のような学習効果があります。

自爆がそれです。

自爆が尊い。

ミスが尊い。

失敗が尊い。

制御不能が尊い。

のです。

九節鞭の型(套路)を打ち、身体を練り上げていくことで

実戦で自分の鎖の運動が制御不能になって自爆しそうになっても

その衝突を刹那に陰陽虚実転換してパラメトリック同調現象を起こさせ制御を取り戻せる事を

目指すのです。

そのように九節鞭の型に取り組むことで合気や円の極意の修行にもなり得ると私は思うのです。

しかも

多人数に襲撃された際の護身の練習にもなり得るかと思われます。

九節鞭は本来、中国拳法のあらゆる兵器を習得したのちに習う最終兵器だそうです。

それってつまり九節鞭は使い方次第で最強の兵器になり得る兵器ってことなのかも知れないですね。

だって

強い兵器を色々習得した弟子に、最後にもったいぶって難しいだけの弱い兵器を教える

なんて事があるのでしょうか?

中国武術では基本動作を組み合わせて自分で套路を創作したりもするようです。

日本武術の型の扱いとは違うんですね。

武器所持多人数を相手にする時は

達人はともかく

一般的には

移動し続ける事が基本と言えるでしょう。

左右の足の前後と九節鞭の正回転逆回転の組み合わせを

必要に応じて出来る必要があります。

そのための練習にはアドリブしかない。

自分で套路を即興創作(インプロヴィゼーション)するしかない。

と言えるでしょう。

流星錘や縄鏢は九節鞭の応用と考えられるでしょう。

九節鞭より長い分は丸めて左手に架けておきます。

ストレートの時だけ右手の握りを緩めれば左手に架けた分が送り出され伸びて行く訳です。

いくらでも短く使え、かつ、伸びしろも右手の握りでブレーキが掛けられるため自由に変えられます。

相手にとっては間合いが読めません。

間合いが読めない点が、軟兵器の硬い武器に勝る利点の一つと言えるでしょう。

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